さよならVIP
今月末、とあるアトリエが静かに幕を閉じます。
豊田市の片隅にある閉店したパチンコ屋と、アートを愛する母が出会って生まれた、アート版プレーパーク「アトリエVIP」
私が初めて出会ったのは、娘が3歳頃。
床や壁の汚れを気にせず、絵の具遊びを思い切りできる場所があると聞いて訪れたのが始まりです。ひろ〜い壁や床に思いっきり絵の具を使えるのがすごく気持ちよかったのをよく覚えています。
裕福な育ちではありませんでした。働く女性はまだ少なく、
文化資本に触れる機会は、テレビに広告、漫画くらいでした。
近所でひとりだけいた、フルタイムで働くお母さんに憧れていました。
一方で、自分のしたいタイミングで、問題にならない程度に適当に学校をズル休みできるのは
生活を切り詰めながらも、親が家にいてくれるからという恩恵も理解していました。
なら、いいとこどりすればいい。
将来もし子どもを産んでも家で続けられる仕事をしよう。
子どもの浅知恵でデザインという仕事ならそれができそうだと知り、
運良く世界に潜り込みました。
100%打算的な考えでデザイン業を選んだ後ろめたさもあり、アートの世界は自分には縁のない雲の上の遠い世界と自ら線を引いていました。
ですが、こんな自分でも芸術というものは歓迎してくれるのだ、とそこにいることを許された気がする場所でした。
デザインはアートではありません。
ですが、デザイナーの根っこにあるアートの一雫がデザインにもたらすものが、見た人への「印象」に寄与することを、遅ればせながらようやく理解するに至りました。
短い間ではありましたが、私の価値観を大きく変えた場所だったと思います。ここで得た、まだ言葉にできないものを、これから時間をかけてデザインの一雫として昇華していけたらと思っています。